嫁が島物語(4)


 明くる日の朝、千恵は大番頭さんに連れられて、奥の大おばあさんにお目通りした。「今日からどこへ出いても恥ずかしないやに、一通り行儀を教えますけん、昼までは私の側におってござっしゃあませ」「はえ」「こらこら、ちゃんと正座して手をついて「はい」てって返事せにゃいけませんがね」。この日から千恵は、いままで聞いたこともない大店の躾をうけることになったげな。障子や襖の開け閉めから、お客様にお出しする煎茶手前、長火鉢やら茶びつの拭き方終い方。どのお道具にも磨きがかかっていて、一代や二代に磨あがるつやではなかったげな。千恵はこげな立派なお道具を、大おばあさんみたいに落ち着いて間違いないように扱える日が早く来ますように、と思った。


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標準語訳

 明くる日の朝、千恵は大番頭さんに連れられて、奥の大おばあさんにお目通りした。「今日からどこへ出いても恥ずかしないように、一通り行儀を教えますから、昼までは私の側にいて下さいませ」「はえ」「こらこら、ちゃんと正座して手をついて「はい」てって返事せにゃいけませんよ」。この日から千恵は、いままで聞いたこともない大店の躾をうけることになったそうだ。障子や襖の開け閉めから、お客様にお出しする煎茶手前、長火鉢やら茶びつの拭き方終い方。どのお道具にも磨きがかかっていて、一代や二代に磨あがるつやではなかったそうだ。千恵はこんな立派なお道具を、大おばあさんみたいに落ち着いて間違いないように扱える日が早く来ますように、と思った。