嫁が島物語(まえがき)


 伝承民話とは、親から子にそして孫へと何代もかかって語り継ぎ、面白い話、ためになる話が生き残り、それに、それぞれの語り手が話を加えたり削ったりして、次第に洗礼されて今も民話として語り継がれている訳です。しかし、いつの時代かに話の元を作った人や、何か種になるものがあったはずです。  さて、私は生粋の松江っ子、宍道湖水で産湯をつかい、長い人生のほとんどを松江で過ごしていますが、不思議に嫁が島のいわれについてまとまった話を聞いたことがありません。美しい宍道湖の夕日の中になくてはならない可憐な嫁が島、キラキラと黄金色の波の間に消えなずむ島影が、悲しげになにかを語りかけているように思えてなりません。  島根県大百科事典(山陰中央新報社刊)の「嫁が島伝説」の項目に酒井薫美先生収録の「姑にいじめられた哀れな嫁が、冬の凍った湖に身を没し、その身代わりに一夜のうちに島が浮き上がる」といういくつかの話が紹介されています。しかし、この話を子供たちに語るとき、私たちは死ぬほどの嫁いびりを、どうして何処で教わればよいのでしょうか。そうしてその嫁いびりを真に迫って子供たちに語り聞かせてよいのでしょうか。そこで松江に生まれた語り部として、大人にも子供たちにも安心して語り継げる、哀愁切々の「嫁が島物語」を創ってみました。ご意見のある方はどうかご遠慮なくお葉書をお寄せ下さい。みんなで良い物語に仕上げて語り継ぎたいと存じます。  物語中で歌われている出雲地方の子守唄に関して、貴方のお聞き覚えになった歌詞をお教え下されば幸いです。

 −出雲地方の子守唄−
 ねんねん眠る子は おころりよ
 里のみやげに 何もろた
 でんでん太鼓にショウの笛
 鳴るか 鳴らぬか 吹いてみや
 ねんねん寝る子は 良い子だよ


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